最新情報は菊地研究室HPに掲載


 活性酸素の研究(一重項酸素分子の生成,検出,定量)

大気中に安定に存在し呼吸などの生命活動に不可欠な酸素分子は,基底状態が三重項状態であり常磁性を示す極めて珍しい分子である。これは基底状態の酸素分子が互いにスピンが平行な2個の不対電子を持つためである。三重項状態が基底状態である酸素分子と有機化合物との反応性はあまり高くない。しかし,放電,光,電気化学的方法などにより,酸素分子は反応性が高い活性酸素と総称される酸素種に容易に変換される。ヒドロキシルラジカル(・OH),スーパーオキシドアニオン(・O2-)および励起状態の酸素分子である一重項酸素分子などが代表的な活性酸素である。
 
 当研究室では光励起された有機化合物からのエネルギー移動による一重項酸素分子(1Δg状態)の生成と磁気共鳴法による検出法を研究している。一重項酸素分子は軌道角運動量が死滅せずに残っているため,一重項状態であるにもかかわらず電子常磁性共鳴吸収(Electron Paramagnetic Resonance, EPR)による研究が可能である。
 現在は,気相において紫外線照射された有機化合物からのエネルギー移動により,一重項酸素分子が生成することをEPR法で直接的に確認することができる。また,EPR信号強度の減衰曲線を観測することにより,一重項酸素分子の寿命を比較的精度良く求めることが可能になった。低圧下(0.6 Torr)で測定した結果,一重項酸素の寿命は 7 s であった。さらに,一重項酸素分子と基底状態の酸素分子を同時に観測することが可能であるというEPR法の特色に着目し,EPR法による一重項酸素分子の定量法を開発した。比較的低い圧力下では,全酸素分子の約30%が一重項酸素分子として存在する状態を長時間維持できる「一重項酸素発生器」と呼べるシステムの試作に成功した。 詳細は次の文献に記載されている。
Chemical Physics Letters, 457, 312-314 (2008).
電子スピンサイエンス, 9, 44-47 (2011).
 
 2012年度からは一重項酸素分子からの近赤外発光(約1270 nm)検出装置を整備し,磁気共鳴検出と発光検出の両面から研究を行っている。紫外線から肌を守るサンスクリーン剤は紫外線のエネルギーを吸収して励起状態になるが,励起状態からのエネルギー移動により一重項酸素分子が生成することがある。当研究室では時間分解近赤外発光法を用いて,UV-B吸収剤として使用されているショウノウ誘導体(4-Methylbenzylidene)camphorの励起三重項状態から一重項酸素分子が光増感生成することを確認し,生成量子収量および寿命を求めた。 詳細は次の文献に記載されている。
The Journal of Physical Chemistry A, 117, 1413-1417 (2013).






酸素分子のエネルギー準位







基底三重項および励起一重項酸素のEPRスペクトル
(気相,増感剤:オクタフルオロナフタレン)






一重項酸素の時間分解近赤外発光スペクトル
(ローズベンガル,エタノール溶液,レーザー励起後 1〜2μs)






一重項酸素の近赤外発光減衰曲線
(ローズベンガル,エタノール溶液,1274 nm)



八木・菊地研究室トップページへ